相続の課税方式と債務の分割
遺産課税と遺産取得課税
相続の課税方式には、遺産課税と遺産取得課税があります。前者は遺産そのものに課税する方式であり、後者は遺産を取得した者に課税する方式で、現行の相続税は、法定相続分を併用した遺産取得者課税です。
例えば、被相続人の財産1億円、債務1億円で、相続人が長男と次男の2人の場合、遺産課税では、財産1億円-債務1億円、結果、純財産はゼロとなり相続税の課税はありません。
一方、遺産取得者課税である現行の相続税では、被相続人の純財産がゼロだからといって必ずしも相続税がゼロということにはなりません。
債務の承継状況によります。
債務の分割(債務の引受)の是非
現行の相続税では、各相続人が取得した純資産価額(課税価格)をベースに相続税額を計算します。
先の例ですが、長男が1億円の債務のみを全額承継した場合、長男の取得した財産はマイナス1億円の財産、相続税ではマイナスの取得財産がありませんので、債務額1億円は切り捨てられ、長男の純資産価額はゼロとなります。
一方、この切り捨てられた債務は、次男の課税価格から控除できませんので、次男が相続した1億円が課税価格となり、相続税の課税が生じます。
この債務の分割ですが、民法では、遺産分割の対象にならず、相続人の法定相続分に応じて当然に分割して承継されると解されています。
先の例では、債務の承継は、長男5千万円、次男5千万円となります。
一方、現行の相続税では、相続人がそれぞれ実際に負担する債務の額について債務控除を認めています。
つまり、債務の分割を前提した申告を容認しています。
先の例では、次男1億円とすることも可で、債務の承継は自由です。
もちろん、債務の分割は当事者間では有効ですが債権者の同意がなければその効力はありません。
債務の分割と贈与
相続債務について、民法のように解すると、長男の法定相続分以上の債務引受は代償分割であり、代償に見合う財産を次男から取得していない以上、「その分は次男に対する贈与である」との主張もあります。
しかし、現行の相続税では、被相続人の積極財産と同様、債務についても分割を容認していますので、法定相続分を超える債務の承継があったとしても贈与税の課税が生じないものと思われます。