裁判所の管轄
民事裁判をするに当たってまず検討しなければならないのは、どの裁判所に訴状を提出するかという「裁判所の管轄」です。
裁判所の管轄の分類は様々ありますが、特に重要なのは「事物管轄」と「土地管轄」です
事物管轄とは、第1審の受訴裁判所としての裁判権の行使を地方裁判所と簡易裁判所に分担させるための分類であり、訴額が140万円を超える事件の場合には地方裁判所が、訴額が140万円以下の事件の場合には簡易裁判所がそれぞれ管轄権を有します。
土地管轄とは、事件と土地との関係によって定められる管轄をいいます。
普通裁判籍と特別裁判籍を内容とします。
普通裁判籍(民事訴訟法4条)とは、土地管轄の原則的な裁判籍であり、被告の所在地(住所、居所、主たる事務所等)によって定められます。
例えば、150万円の貸金返還請求の訴えの相手方である被告が神奈川県横浜市に住所を有している場合には、その普通裁判籍による管轄裁判所は横浜地方裁判所になります。
特別裁判籍(民事訴訟法5条)とは、事件の種類に応じて認められる裁判籍のことをいいます。
すなわち、
財産権上の訴えの場合には義務履行地が(同条1号)、
不法行為に関する訴えの場合には不法行為地が(同条9号)、
不動産に関する訴えの場合には不動産の所在地が(同条12号)、
それぞれ特別裁判籍を有します。
例えば、150万円の貸金返還請求の場合、貸金返還債務は別段の意思表示がなければ債権者の住所地に持参して弁済する義務がありますから(民法484条、持参債務)、原告(債権者)が東京都品川区に住所を有している場合には、その特別裁判籍による管轄裁判所は東京地方裁判所になります。
普通裁判籍と特別裁判籍は排他的な関係にあるのではなく、原告がどちらかを選択することができます(任意管轄)。
ただし、訴訟の著しい遅滞を避けるために必要があると認められる場合や、当事者間の衡平を図るために必要があると認められる場合には、当事者の申立て又は職権によって、他の管轄裁判所に移送が認められることがあります(民事訴訟法17条)。
以上の他に、合意管轄があります。
合意管轄とは、当事者が合意によって定めた第1審の管轄をいいます(民事訴訟法11条)。
契約書に「本契約に関する紛争については、東京地方裁判所を第一審の管轄裁判所とすることに合意した。」等と記載されていることがありますが、これが合意管轄です(専属的合意管轄)。
例えば、150万円の貸金返還請求で、原告(債権者)の住所地が東京都品川区で、被告(債務者)の住所地が神奈川県横浜市の場合に、金銭消費貸借契約書に上記の合意がされているときは、専属的合意管轄を有する裁判所は東京地方裁判所になります。
ただし、専属的合意管轄が認められる場合であっても移送は可能です(民事訴訟法17条、20条)。
貸金業者の約款に大阪簡裁に管轄合意がされていた場合(債務者である被告は福岡に居住)であっても、被告の経済的負担等を考慮して福岡簡裁に移送を認めた裁判例があります(大阪地裁平成11年1月14日判決)。
契約書に合意管轄の定めがある場合には、注意して読むようにしましょう。