不動産取得費と借入金利子
個人が所有している不動産を売却すると、譲渡益から特別控除額を控除した金額が「譲渡所得」として所得税が課されます(所得税法33条)。
譲渡益とは、その年の譲渡に係る総収入金額から取得費と譲渡費用の合計額を控除した残額のことをいいます。
例えば、4,000万円で買った土地を5,000万円で売って、不動産屋に仲介手数料を156万円支払った場合、
5,000万円(総収入金額)-{4,000万円(取得費)+156万円(譲渡費用)}=844万円
が譲渡益になります。
ここで「取得費」とは、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額をいいます(所税38条1項)。
具体的には、
「資産の取得に要した金額」とは、資産が他からの購入資産である場合には、購入原価の他、手数料、登録免許税等の資産の取得に要したすべての費用を含みます。
「設備費」とは、資産の取得後において資産の量的改善に要した費用をいいます。
「改良費」とは、資産取得後において資産の質的改善に要した費用をいいます。
さて、ここからが本題です。
不動産を購入した際に借り入れた住宅ローンなどの借入金の利子は「資産の取得に要した金額」すなわち「取得費」に含まれるでしょうか。
条文上、明らかでないので問題になりました。
この点について、最高裁平成4年7月14日第三小法廷判決は要旨以下のように条文を解釈して、取得費に含まれると判断しました。
所得税法33条3項が総収入金額から控除しうるものとして、その資産の客観的価格を構成すべき金額のみに限定せずに、取得費と並んで譲渡費用をも掲げていることから、「資産の取得に要した金額」にはその資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される(例えば、登録免許税、仲介手数料、名義書換手数料等)。
他方、その不動産の維持管理に要する費用等、居住者の日常的な生活費ないし家事費に属するものはこれに含まれないと解されるところ、一般に銀行借入金の利息もこのようなものとして理解されうる。
しかし、銀行借入れの後、個人がその不動産をその居住の用に供するに至るまではある程度の期間を要するのが通常であり、この期間中、当該不動産を使用することなく利息の支払いを余儀なくされるものであることを勘案しなければならない。
そこで、借入金利息のうち、居住のためその不動産の使用を開始するまでの期間に対応するものは、その不動産の取得に係る用途に供する上で必要な「準備費用」として付随費用に含まれ、使用開始後の借入金利息は、帰属所得に対応すると考えるべきであるから付随費用に含まれないと解すべきである。
上記の最高裁の解釈は税務行政の実務に及び、通達にも規定されました(所得税基本通達38-8)。
マイホームを売却して譲渡所得の計算をする際には、住宅ローンの借入日から当該住宅の使用開始日までの間の借入金利子を取得費に算入することを忘れないようにしましょう。