源泉徴収制度の法律関係
従業員に給料を支払ったり、弁護士や税理士に報酬を支払ったりすると、支払者には所得税の源泉徴収義務があり、原則として支払い月の翌月10日までに納税しなければならなりません(所得税法183条1項、同204条1項他)。
会社を経営している方は毎月の経理事務としてよくご存じかと思います。
源泉徴収制度において、当事者である国・支払者・受給者の三者がどのような法律関係にあるのでしょうか。
1 国と支払者との法律関係
支払者は国に対して「納税者」として源泉徴収による所得税の徴収・納税義務を負います(国税通則法2条5号)。
そのため、支払者が源泉徴収した所得税を納税しなかった場合には、国は受給者ではなく、支払者に対して納税告知をして徴収手続をします(国税通則法36条1項、所得税法221条)。
国と支払者との法律関係は上記のように公法上の関係です。
2 支払者と受給者との法律関係
受給者から源泉徴収した所得税に不足がある場合に、支払者が不足分も含めて納税したときは、支払者は受給者に対して不足分を天引き又は請求することができます(所得税法222条)。
また、支払者に源泉徴収された所得税額が過大である場合には、受給者は支払者に対し本来の債務(給与等)の一部不履行として支払を請求することができます。
支払者と受給者との法律関係は上記のように私法上の関係です。
3 国と受給者との法律関係
国と受給者との間には直接的な法律関係は生じません。よって、受給者が納税義務の存否又は範囲を争う場合には支払者との関係において争わなければなりません(最高裁昭和45年12月24日第一小法廷判決)。
また、支払者に源泉徴収された税額の過誤を受給者が確定申告で是正・精算することはでいないとされています(最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決)。
以上のように、本来の租税法律関係は国と受給者(納税義務者)との間の単純な公法的法律関係であるのに対し、源泉徴収制度の下では支払者(源泉徴収義務者)が介在することにより法律関係に変化が生じます。