振込め詐欺にも雑損控除を
ネーミングが悪い
「振り込め詐欺」とか「オレオレ詐欺」とか、「詐欺」と名がつくと、被害に対する税法上の扱いは、急にかたくなになってしまいます。
被害救済の雑損控除
被害額を税の負担軽減で救済しようというのが雑損控除ですが、対象となる雑損とは災害・盗難・横領を原因とするものに限られています。
詐欺・恐喝による損失は含まれていません。したがって「振り込め詐欺」も対象外と理解されています。
詐欺・恐喝が税の救済の対象から外れているのは、詐欺や恐喝により相手側に財物を交付させられることの一因が当事者にあるからと解されています。
詐欺ではなく横領ではないか?
しかし、「振り込め詐欺」の場合は、子供や孫に渡すつもりで振り込んでいるのであり、渡された相手が子や孫ではないのだとしたら、その相手に財物の所有権は移転しません。
ここは通常の詐欺・恐喝と異なるところです。
通常の詐欺・脅迫の場合は、財物を相手に渡す意思をもって、その相手に財物を交付します。
そうすると、「振り込め詐欺」では、犯罪者は振り込まれた金銭に対しては、それを仮に預かっている状態にすぎないわけです。
そして、預かっているものを隠匿・略取することは横領にあたります。
「振り込め詐欺」は、錯誤を誘発して横領できる条件を作り出す犯罪として理解することができます。
なぜ雑損控除がある?
また、雑損控除を設ける理由の中には、個人の自力救済・自力報復を禁止する社会制度が選択されていて、その裏側に個人の社会生活上の安全平穏の保障が国家の義務であるということから、国家として予防しきれなかった犯罪による被害については国家責任としての被害補てんをいささかなりともするべき、という考えがあるとの理解をしてもよいように思われます。
そうであるなら、病んだ社会が生み出す新しい犯罪類型により高齢年金者が狙われることに対し、税による救済の配慮は一歩踏み込んで、もっと寛容であってもよいのではないでしょうか。
さまざまな詐欺
取り込み詐欺、籠脱け詐欺、融資詐欺、手形詐欺 、保険金詐欺 、寸借詐欺、結婚詐欺その他色々な詐欺がありますが、詐欺と名がついていても、内容を吟味すると、窃盗の類型に近いもの、横領の類型に入れる方がよいものが多々あります。
籠脱け詐欺は、銀行などの前で、銀行の案内係を装い、言葉巧みに現金や小切手などを受け取り、その銀行の他の出入口から持ち逃げする。また、タクシーでマンションなどの前まで行き、「金を取ってくる」と言って降車し、マンションにはいって裏口から逃げるなど、のことを言います。
銀行員を装ってのだまし取られた財貨は、預けたものが横取りされたという点で、「振り込め詐欺」と類似しています。預けた、という点に焦点を当てれば、横領に近くなります。
無銭飲食は詐欺に含めて語られることがありますが、無銭飲食でそのまま逃亡する行為は、タクシー詐欺と同じで、相手に代金相当の金銭債権を提供する意思がないのに無理やり持ち去られた、という点で置き引きやスリとも近いといえます。
ただし、盗られたものを金銭債権と考えると、財物ではないので、窃盗罪の構成要件としては難しそうです。
とはいえ、盗られたものを飲食サービス・運送サービスと考えてもよさそうです。
刑法
第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役に処する。
第246条(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
第249条(恐喝)
人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
第252条(横領)
自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。