所得・贈与課税の適用除外範囲
民法877条は、扶養義務者の範囲を定め、互いに扶養を義務付けています。条文では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と定めています。
そこで、贈与税及び所得税では、一定の条件を満たした給付財産については、所得税から除外し、贈与税の課税価格にも算入しない旨を定めています。
(1)所得税法上の取扱い
所得税法では、個人からの贈与により取得したものには所得税を課しません。
さらに、「学資に充てるために給付される金品及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」も課税しないと定めています。
この所得税法の規定は「扶養義務の履行」に伴う財産給付は贈与にはあたらないため、そのことを考慮してこの規定を設けたものと思われます。
(2)贈与税の取扱い
贈与により取得した財産であっても、扶養義務者間の生活費及び教育費に充てられるものであり、かつ、通常必要と認められるものは、贈与税の課税価格に算入しないと定められています。
なお、子に十分な所得があるにもかかわらず、一緒に暮らす父が生活費の全部を負担し、また、孫(その子の子)の学資等の全部を祖父(子の父)が負担している場合に、課税の適用除外となることに疑問もあるようです。
そこで、問題となるのは、生活費及び教育費の意義とその取扱です。
(3)生活費及び教育費の範囲
生活費は、日常の衣食住に必要な費用のみでなく、治療費、養育費等も含むものと取り扱われています。また、教育費ですが、義務教育費に限ることなく、被扶養者の教育上、通常必要と認められる学資等を含むものとして取り扱われています。
以上のことから、前述した父(祖父)の負担が「生活費」、「教育費」に充てるためになされたものである限り、贈与税の課税価格に算入されないと考えられます。
(4)生活費及び教育費の取扱い
生活費、教育費として取得した財産を一時的に預貯金や株式等に運用した場合、「通常必要と認められるもの」以外のものとして取り扱われるおそれがあります。それゆえ、必要な都度直接これらの用に充てることが課税の適用除外要件と言えそうです。
1.所得税法9条(非課税所得)
14 学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品
2.相続税法21条の3(贈与税の非課税財産)
次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの
3.扶養義務者からの生活費等関係〕
(「生活費」の意義)
21の3-3 法第21条の3第1項第2号に規定する「生活費」とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く。)をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるもの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除く。)を含むものとして取り扱うものとする。(昭50直資2-257改正、平15課資2-1改正)
(「教育費」の意義」)
21の3-4 法第21条の3第1項第2号に規定する「教育費」とは、被扶養者の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限らないのであるから留意する。(平15課資2-1改正)
(生活費及び教育費の取扱い)
21の3-5 法第21条の3第1項の規定により生活費又は教育費に充てるためのものとして贈与税の課税価格に算入しない財産は、生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。(平15課資2-1改正)
(生活費等で通常必要と認められるもの)
21の3-6 法第21条の3第1項第2号に規定する「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいうものとする。(平15課資2-1改正)
(生活費等に充てるために財産の名義変更があった場合)
21の3-7 財産の果実だけを生活費又は教育費に充てるために財産の名義変更があったような場合には、その名義変更の時にその利益を受ける者が当該財産を贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。(平15課資2-1改正)